なぁらぁうりぃんぐ

白衣を身にまとった、渋面の男は真っ白な紙にペンを素早く、ほとんどその表情を変えることなく、走らせた



narrow ring


と、


その完璧な迄に機能美という特徴を追求した陰茎の先端、それが描かれたスケッチからー長い横線を大雑把に引き、その言葉を添えたのだった



その白紙に浮かぶ、達筆で落ち着いた雰囲気を見せるnや、私を嘲笑うかのような愉快な口元を思わせるwをわたしはじっとみていた。すると、その文字達が白紙から独りでに起き上がり、その医師の完全な発音とともに私の耳へと届く、そんな気さえした



全てを打ち明け、白状した私は、比較的晴れやかな気分を持って緑ヶ丘駅前のこの小さなクリニックをあとにした

不死身

わたしのは、確かに足りていなかった。卒業要件取得数に


そう、確実に不足していた。事実として、ただ、私はそれを見て確認した後も至って冷静であった、いや、確かにそれは強情の飾りという感じはなかった


ただそれにはーこれまでの経験上から来る、暗い底に落ちていく私を、背後から支えてるくれるという存在を


終電の乗り換え。私一人だけ悠々と、怒涛の如く階段を駆け上がるスーツ姿の男達の中を、ゆったりと手すりに身を預け、登っていく。そういう不確かな安心感に何時も私は、無意識のうちに縋っていた


私が、この自宅の5階。ここから、このかわいい白いペンキの塗ってある柵をひょいと乗り越えて…私は死ぬのだろうか?そんな気が、実のところ起こらない。


教授に言われた、きみは甘い、ということばを思い出した

新事業

ここ最近僕は新たな事業に取り組見始めました


短い小話を幾つか、チマチマ描くのも楽しいものですが、少し長いものにもチャレンジしてみようぜという気分になって参りました


本当にただの気のしわざで、気が進んだという理由だけです。案外そういうものなのでしょうか?


一二年前の僕には、物を書く事という行為そのものが理解出来なかったです。ただ、割と今は当然の流れの如くというか…自分の中にいつも滞ってる世界というか、そういうものを言葉に起こすっていう作業は結構面白い事に気付いてしまったんです。自分の中の漠然とした定説とか、案外他人の常識には当てはまらないとかある気がしますし


書き上げたものも陽の目を浴びる事なく別にゴミなっても構いやしません。兎に角、この事業の最中にどんな掘り出し物があるか楽しみです。

黒湯

私はその重い引き戸を何かを確かめるように、ゆっくりと丁寧に、引いた


外に出た。開いた扉は独りでに元の鞘に収まり気品のある音を…


その湿った包容力を備えた音。私が外界に足を踏み入れたという、そんな合図でもあった。足のつま先が磁器質のタイルから冷たさを感じ取ったかと思うと


冬朝の心地の良い光、眼下にはほんのりと香る檜の木枠、そこには湯が—その湯は煮こごりのように妖しく、黒く透き通り、湯面を優しく撫でるように、時には渦を巻きながら白霧が絶え間なく、躍動感を持って彷徨った


私はこの黒湯にひどく興奮した。それは、権威あるあの裸子植物に憧れる会の長、としてのところが大きかったかもしれない。それは私の恥部を晒す事なくこの土曜の朝を愉しめる、というこの界隈では月並みの考えではあったのだが…


肩まで湯に浸かる。私は水面の真上から黒湯のその深淵を覗き込んだが、私にはまだ救いようのある軽微な深淵に思えた


が、私は今だ深淵という深淵を覗いた試しがないことに気づいていた







http://www.yamatonoyu.com

信仰

腎臓をお揉みなさい、されど貴方は・・・

 

 

私は、半狂乱になって腰骨の上あたりを力いっぱい親指の腹で押した

 

そこには、指からは堅く繊細でキメの細かい筋肉繊維、そして表面の柔らかな脂肪を感じ取ることができた

 

 

「すみません・・こんな小さな物理的刺激が効くのですか。そもそも、彼に届いているのでしょうか?

 

名医は落ち着いたしゃべり口調で、

 

「勿論、効果はあります。脂肪という外壁にノックし続けるのです、内側の住民である彼にもノックの音は確かに、確実に聞こえるのです。とにかく、たたき続けること。いつか彼がそれに渋々ですが、応じる時が来ますから・・そうすれば、血液も何から何まですべてが改善されて貴方は健康体になり、疲れの蓄積されにくい身体になるでしょう」

 

 

私は家に帰るや早速、腎臓を揉み始めた。といっても、腎臓を揉んでるという感覚は皆無であったが、不思議とそんなことはどうでもいいことに思えたのだった。私が、その時感じていたのは、純粋な幸福感、この確固たる事実が私をほとんど支配し、最も重要な目的さえも鈍らせ、脆弱なものへと変化させてしまった

 

私は寝る前にも名医と会話をし、真新しい帯を付けたこの分厚い名医を、枕もとにそっと置き、何とも言えぬ新鮮な充実感を抱きながら、明日を迎えるのだった・・・

 

 

 

 

板の二人

板の二人が不仲で険悪なのは周知の事実だった


それだけならまだいい。この二人の関係性の特異なところといったら、或るコックの上司から二人の不仲に関する説教を受けてたという点だろうか


「おめぇら仲わりぃのはお客には関係ねぇよ。そんなんじゃ板は勤まんねえ、ムカつくんだよ、おめぇらが何も喋らねぇで。てめぇらそんな仕事できねぇぁだろ?あ?ふざけんな。兎に角、お客はおめぇらの都合なんかしらねぇよ。おめぇもこいつが気に入ねぇなら、面と向かって言ってやれよ、おめぇもだよ。おめぇもこの糞みたいな先輩に付いてけねぇなら仕事全部俺がやってやる位の気概をみせてみろや。もっと話合えやてめぇらでよ


この事件以降、周囲または本人達の間でさえ、暗黙の了解の元、水面下で活動していた両者の不仲が、現実の表舞台に堂々と踊り出るという結果になったのだった


しかし、この件はこの上司が思いもしない方向へと進行した


というのも、この事件を皮切りに、二人の不仲という関係が一種の安いコンテンツに成り下がってしまった。周囲から外力により


その後、この二人の関係は好転してしまった

手話ニュース

何となく、テレビをつける


時間を調べたかったから、それ以外の意味は特に持たなかった


テレビの電源が入り、少し遅れて画面に光が灯る。ちょうどニュース番組だった


「トランプ大統領がイスラム圏………


目鼻立ちの整ったキャスターから飛び跳ねるかのような歯切れの良い日本語が心地の良いリズムで私の中へ刻まれいく


画面の左の端、そこでは中年のおばさんが堂々と慣れた手つきで。手だけではなく、腕も身体も全てをも、全てを総動員させて伝えようとしている


私は、キャスターがトランプという言葉を発する度に画面の左を注意深く見つめた


これは、単純な疑問からであった。トランプという固有名詞をどう表現するか?といものである


もし、仮にトランプという固有名詞を手話で表現する方法がないのであれば、例えば米国と大統領という一般名詞を組み合わせれば表現できるだろう


もしかしたら、この世の固有名詞は無数の一般名詞の集合として捉えられるかもしれない。東京タワーであったら、その材質、築年数、高さ、場所…。それが例え蓮実クレアであっても。身長、年齢、体重、カップ数、経験人数、バスト、所属会社…を指定すれば表現できるだろう。無数の事柄、蓮実クレアに関する出生地、人生におけること…さらに細かい出来事を追加していけば、限りなく蓮実クレアという存在に接近することができるし、不確実性を極限まで減らすことができる


私は、そこに何かフーリエ級数展開を思わせる美しさを見出すことができた。(全ての連続な関数は様々な周波数と振幅を備えたsinやcosの無限級数、和として表現できるというもの)


それはさて置き、結局後で調べて分かっこと。手話で固有名詞を表現する際は、「指文字」というものを使用するということだった。僕の勝手な妄想は杞憂という形で幕を下ろしたのだった

ツマラナイ説教

ちょうど、お茶の水で乗って来た親子だったか…大きなランドセルを背負った少年が、叱りつけられていた


「じぶんがやられていやなことはほかのひとにはしてはいけません」


僕は何度となく、あの狭苦しい整然とした教室でこれを聞かされたものだ


しかし、この教えは、殆ど意味をなさないことが…もうそれは、随分と昔からはっきり分かりきったことではあった


結局、他人に、自分の中で働く法律を適用しても、何ら効力を持たないし意味がない。


各人は、その人自身の法やシステムやアルゴリズムみたいな下地の上に成り立っていると思うからだ


勿論、僕と似たような精神システム、アルゴリズムを持った人間はいる。大抵、そういう人間と同じ時を過ごしていても疲れない。それは自国の法律を他国でも行使できるし、またその逆も可能だからである。両国をほぼ土足のまま往来であり、そういう人間を私は、俗に呼ばれる友人と考えている


もし私が素直に尊敬できる人がいたとしたら、その人物は他人のルール。複雑に絡んだそれを一つづつ解きほぐしながら…その上で行動できる人間だろうか、要約すると


ほかのひとがやられていやなことはほかのひとにはしてはいけません


だろうか?








多分そんなの、むりだろう。と僕は自分でも笑ってしまった

今朝

7時半だった


暖房のせいか、水気のない空気。その乾いた空気たちが水を求めて私の身体に入り、要件を済ませたら、すぐさま慌ただしく外に拡散していく…


そんなことを意識的に繰り返す。その内に徐々脳味噌が、身体が今日の世界に順応してくるのを感じた


しかしそれは、あまり気持ちの良い朝とは言い難かった。脳が起動する段階で、何かが私の中で引っかかっていたのが所以である


その正体はすぐに理解できた。


というのも、それは昨日の友人の話だった。それは二年以上付き合った彼女と音信不通になりとうとう浮気現場を目撃し消滅寸前だという類の話だった


先に言っておくが、私にはそんな破天荒な恋愛経験は存在しなかった。


分からない。私が想像を幾ら膨らましたところで、それは妄想の範疇を越えず、実態を伴わない。それは一筋の線香の煙が大気中に散っていくように。儚く、途中で消えてしまう。同情するという行為の前段階、その事象を理解するという段階で私は苦しんだ


そこで私はその手段を取るのを止めてしまった。次に出てくるのは侮蔑、嘲笑といった道具である


こういった低俗と思われる手段は、同情の同列でなく、対岸に存在するものと思われるかもしれない


たしかに中途半端な、幼稚な同情ほど不愉快なものはこの世にない。


それでも私はそれを紐解こうと、努力すべきだった





そんなことを考えていたら、身体がベットから自然に起き、また、1日が始まってしまった