ばんね

我々4人は深夜2時の国道6号線をただ、ひたすら直進した。過ぎゆく目に入るものはすべて、事故防止のための主張の激しい電飾であったり、コンビニの白色灯であったり、それだけだった。私は時折、手の甲で目の下を拭いながら、集中力を保つことに全神経を傾けていた。睡魔との闘い、私はまだ敗れてはいけない。後部座席のお姫様は確実に、その大きな口を開けて規則正しく寝息を立てているし、後部座席のもう一人のナガクラという男も、暗がりの中で御自慢の薄型PCを広げている。わたしの最後の頼りは、左隣に座る田中という男、ただこの一人のみであった…

田中は唐突に、口を開いた

「もう少しで左折や、すけ」

兵庫出身の特有な喋り口調の彼の言葉は、わたしを安心させた。出発してから2時間半。ようやくの左折である。これは祈願であり、目的地までの距離がもう、殆どないということを教えてくれる。

その後は国道の大通りから外れ、暗闇の山道を縫うように、我々ハングライダー講習合宿御一行は目的地の宿泊施設に吸い込まれていく…大変申し遅れたが、我々の目的は明日のハングライダー講習を受けることである。その為にこうして夜中のうちに現地に移動して宿泊し、万全な状態で朝から練習を始めるという算段である。

我々が宿泊施設に到着したのは、もう3時になろうというところだった。宿泊施設と言っても平屋のボロが二軒、並んでいるだけであるが…その前の広々とした駐車場、というより、もっと空虚な意味を込めて、スペースと言った方がいいかもしれないが、そこにはいつもに増して多くの車が停めてあった。他大学のサークルで大盛況なようだ。このとき、ここの宿泊施設での文化、おぞましきあの言葉「バン寝」。それが微かに、脳裏をよぎったのだが、特段気にも止めなかった。

わたしが着いたと声をあげると、田中が何やら後ろのお姫様を起こし始めた。一向に起きそうにない彼女の身体を揺すりながら、めんどくさそうに言った

「ボロ屋の中に寝る場所あるかみてくるわぁ」

「おう、サンクス。頼むわ」

田中が砂利道をスタスタと走って、今夜の宿泊地であろうボロ屋の中の偵察に行った。というのも、様々な団体が先着順で中のベッドを利用するため、場合によっては寝る場所がない、という事態も起こり得るのだ

そして暫くすると、田中が車に帰ってきた。

「ダメや」

「まさか人でいっぱい?」

「そうや、三人までなら中のベッドでギリ寝れる」

「これはもしかして…」

そうこう我々に暗雲が立ち込めているところにボロの平屋から一人の男がやって来るのがわかった。タイヤが砂利を踏み潰す、あの音で目が覚めてしまったのだろうか?ジャージ姿の彼は運転席のドアガラスを丁寧に二回、コンコンと叩くと、開けてくれと何やら手首のスナップを大袈裟に効かせている

「こんばんは、ボロ屋は定員オーバー状態なのであのバンに回っていただければ…」

彼は駐車場の端の寂れた畑の前に止まる、その巨大なバンを指さしてそう言った。その悲痛な彼の声の響きから、まるで、いざこれから戦地に向かう我々を見届けるような、そんな同情に満ちた何かが確かにあった

「いや、でも隣の彼が今さっき中を見に行ってくれたのですが、三つほど、ベッドの空きがあったのでバンで寝るのは一人です

「それはそれは、ベッドが空いてましたか!!それはそれは」彼は続けて、

「わたしは今の今まで寝ていたのですが、先輩方が誰か夜中に来ることを見越して、平屋のベッドからバンに移ってくれたかもしれません!!」

「いや、それは有り難いです…明日お礼を直接言わねばなりませんね…ただ、我々四人の中から一人、バンで寝る人間を出さねばなりませんね」

私は後部座席をゆっくりと振り返った、そこには相変わらずPCに噛み付く男と、口を開けて寝る女がドアに身を預けて、ただ、寝ているのみであった。唯一助手席に座る田中は、俺が行こうか?というような目配せを私にしたが、それをドア越しのジャージが先に制して、満を持してこう言った

「分かりました。私がバンで寝ます。あなた方はまだここの寒さもあまり知らないでしょうし、バンで寝れば勿論こと、ご存知の通り、明日の講習にも響きますしね」

このときの私は知っていた。ここの文化に染まった人間が「バンで寝た」という事実を後日、まるで英雄譚のように他方に語り聞かせることを…

「いや、いやいや、それはあなたに申し訳がありません。私が明日講習を受けないので、私がバン寝します」

わたしは敢えて、バン寝を強調して言った

「あくまでも、無理はなさらないでくださいね、どうしてもということであれば私に一声かけて下さい」

「いや、本当に助かります」

私はそう言って軽くお辞儀をして、窓を閉めた

それから田中が口を開いた

「すけぇ、どうする?誰がバンで寝る?マポォはもう寝てるかムリやし、もともとこいつはベッド確定や。」

私はバン寝をしたくなかった。それはバンでの寝心地や寒さを気にしてのことでは無かった。寧ろそんなことではなく、バンで寝るということ、私から言わせてもらえば屁でもないような事柄に対して、自己犠牲に酔った英雄気取りをしている人が好きになれなかったからである。

突然、ナガクラがノートPCを丁寧に畳み、鞄にしまってから、席を立った。

「一旦トイレいってくるわ」

彼はこういった面倒ごとを、極端に嫌うたちだった。後のことは我々に任せて、自分がトイレに行ってる間に何とか上手いこと頼む、という彼なりのアピールかもしれない。

「明日すけぇは講習無いし、皆しっかり睡眠取りたいだろうから、バンで寝てもらってええ?」

私も田中のその意見には賛成だった。運転手として来ただけの講習のない私が、バン寝する。他の連中が明日のハングライダー講習の為に体力を温存する。合理的である。田中の清々しい、キッパリとした物言いには異論の余地は無かった

 さてさて、私がバンに移ろうという流れになってから田中が思い出したかのように言った

「そういや、ナガクラは?さっきトイレ行ったきり帰ってこんけど、もうあいつ寝たんちゃうか?」

わたしは、その時になって彼の、ナガクラの真意を理解した。やられた。これが、ナガクラの正義。面倒ごとは自分が背負ってしまえばいい。それが彼のやり方だった

「わたしはバンに行く必要はどうやらないようだね」とわたしは言ってから田中も

「あいつぁ」

とにこりと笑い、後ろの寝てる女を引きずって我々三人は平屋のベッドに向かった

 

 

 

 

 

 

ピザ屋との文通

 拝啓   帰宅すると、わたしは胸が痛くなります。新聞受けの奥に刺さった、クシャクシャの貴方方のチラシを見ると。ここまで、わたしが熱烈なオファーを頂いているのに、それに応えない、ピザに冷ややかな人と思っておられませんか?わたしは新聞は取ってませんので、完全なるピザチラシ受けです。朝ピザ、夜ピザ、カモンカモンです。思えば私は常にピザを欲して、生きてきました。幼少期、パーカーのフードを裏っかえしにすると彼女募集中というのが流行りました。ご存知でないですか、ね?私はよく友人にふざけてフードを裏向きにされましたが、それを私は極端に嫌いました。別に、私は彼女を公に募集するのが恥ずかしかったのではなく、そもそも、女というものにその頃微塵の興味も芽生えてなかった頃です。結論から申し上げますと、一つの可能性、そう。わたしのフードにピザを誰かが入れてくれる可能性が亡くなると、当時の私は考えていました。それは冗談ですが、私はマンション住みなので、五階までエレベータに乗るのですが、時折、ほんの稀にです、ピザ屋のお兄さんと鉢合わせることがあるんです。あの香り、食欲を一気に覚醒させるあの香りが、あの空間を一瞬で支配するんです。私の背後には、ピザを持ったお兄さん。あぁその、片手にちょんと行儀よく乗った貴方のそれを、私のフードに

とりあえず、もう、気が済んだので、わたしは寝ます。

 

山本

 

西陽

 西陽、それはブラインドの上に薄っすら積もる埃を、いつもよりも、少し、際立たせてくれるようです。この時間に家にいることはあまりありませんが、昨晩帰宅しなかったのもあって、洗濯と風呂のために帰りました。

部屋のホワイトボードに西陽がスポットライトのようにちょうど当たってか、わたしは何と無く、無感情で見つめておりました。5/30と、大きな字で力強く、書き殴ってあるのに気付きました。それと横に小さく、丁寧に、家賃27日と添えてありました。

さっきより日が沈んで暗くなると、ホワイトボードにいた西陽も何処かに消えていきました。5/30という文字はもう、今にも動きそうな予感を、わたしに与えることはありません

the great of 金曜日

晴天のお昼時、わたしの今日は、セブンのレジに並ぶOLの何気ない一言によって始まった

 

「今日のお弁当まっ茶色なんだよなー」

 

この瞬間は、突然訪れた。一切の予告もなしに。わたしは雷でも撃たれたように、手に持っていた伊右衛門をぐっと、強く握った。それから会計を済ませて、東口のバスターミナルに向かった。

 

そして、昼間の夜行バスに乗り込む。それは高速バスが今までわたしにとっては「夜中に走行する」というのが常であったから、この表現が何かとしっくり来てしまう。

 

乗り込んでからは、先程セブンで入手した、じゃがりこを食べる。夜行バスでじゃがりこを食べるのは熟練の技術が必要で、噛むことは決して、許されない。舌の上で転がしながら軟化させて飲み込む。この方法しかない。しかし昼間の夜行バスの場合はこの心配はなさそうである。胸を張って、堂々と、じゃがりこを頬張ろうではないか

 

 

レッドカード

最近頻繁に天気が気になります。最近、というのは此方仙台での交通手段が、殆ど自転車であるためです。

 

天気予報を見ると、ああ、明日は雨なんだな。と。

 

雨、なんですよ

 

一昨日くらいに、東京にいる彼女に手紙を一つ書いたんです。

 

元気にしておりますか?的なやつです

 

「東京にいる彼女にお手紙を書く」

 

響きがいい。きっと東京も雨だろうな、と。

 

先程、雨の帰り、無灯火で自転車を運転していたのでレッドカードと言うのを頂きました。警察の方がレッドカード、貰ったことありますか?と聞くので、私はありませんと。更に、

 

レッドカードはいっぱつたいじょうじゃないんですか?

 

と尋ねると、笑っていました。

 

 

夢をみたくない

こんばんは山本です

 

全然どうでもいい話をしますが、コンプレックスという言葉をよく我々は日常で使います。私も以前、コンプレックスを被っておりましたので、この言葉にはよくお世話になったものです

 

ところで、言語連想?というものがあります。例えば、火→水とか光→速いとかなんでもいいです。わたしなんかは、流るる川を観るとちんこが疼くんです、丁寧に説明を加えると、それは川を皮と、まず無意識に結び付けて、そこから剥けないに着地するのでしょう。もっと言うと、私がボロボロ細い釣竿を道端で拾ったら、渓流の川を連想し、云々、それが包皮に達するというのは、少々やりすぎ、といったところですが

 

要するに、コンプレックスは関連要素の集合ネットワークできていて、それの一端に少しでも触れてしまうと…核心部の事実までフローチャートの最短距離を通って、向かっていくわけです。

 

それで、私の最近みる夢、全く上の通りに進行します。それが少し、言いたかっただけです。そこら辺をふわふわ浮かぶシャボン玉に触って、パンッと割れたあの瞬間、あれが積極的に、永遠と続くのが夢なんです…

 

 

A子さんへ

技術補佐員のA子さん、この度はわたしのとった行動を何とお詫びをすれば良いのか、正直なところ分からずにおります。ただ、一つだけ、お分り頂きたいのは、僕には全くの、1ミリもの悪気すらなかったということ。たまたま研究室の隣のA子さんの部屋のあの大きな冷蔵庫に、昼に使うキャベツとベーコンを取りに来た、たったそれだけなんです。

A子さんは独り身だという事を、この間の飲み会でわたしは誰かから聞きました。毎日、夜遅くまで、実験室で白衣を纏い、試験管を振るう姿を見ていますと、男の入り込む余地など寸分もないことも、容易に頷けます。

でも、わたしはある意味、諦めているのかとさえ思っていました。あの寡黙で真面目な研究に対する姿勢。そうです、だからこそ昨日の昼の事件に対して、わたしの中にも暗く重い罪悪感として、居座っているとさえ思われるのです。

A子さんの部屋に入った途端、何故かその時はパソコンに目が行きました。そうですね、あの時は廊下からドアを開けて入ったのではなく、研究室中からA子さんの部屋に入ったので、今思えば廊下側からノックをして入室するべきでした。ディプレイに眩く光る、ウェデングドレスの数々、右手にマウスを掴み、左手で頬杖をつきながら…食い入るようにではなく、何気無くポカンとしながら、目の保養という具合で…

その時です。後ろのわたしの気配を感じなさったのか、わたしもその時すぐに部屋を後にしていればと、今でも後悔しますが…兎に角、急いで、慌ててマウスを動かして、タブを閉じる仕草は、わたしの胸の奥底に苦く残り続けて…

兎に角、わたしは早急に、忘れなければなりません。A子さんの為に、そしてわたしの罪悪感が再び、息を吹き返さない為にも

 

 

 

ふりーだむ

こんばんは、今日は研究室の教授と助教が出張ということもあってか、皆少し羽を伸ばしておりました…記憶では、5時半位には皆で研究室を出て、呑み屋で楽しくやってました

 

羽を伸ばす。それはまさに自由を手にしたようでした。しかも、私一人だけの自由!では無くて、それを周りの人間と共有できる素晴らしさといったら…

 

これはわたしの土日問題に少し良い刺激を与えてくれました。苦痛も不安も、歓喜も、それら全てを差し出してくれるのは、結局は人間社会なのだと、感じた次第です

 

 

食パン

今日の格言です

 

「食パンはそのままで食べると、美味い」

 

家に着くと、腹が減った。何かないかと冷蔵庫をチェックするも、賞味期限すれすれのキムチがちょこんと、座っている

そこで私はテーブルに乗る、手を付けられてない食パンに目を向けた。これは半額で売られてた奴でトンデモナク安かったので先日購入したものだった。でも

 

焼くのは面倒だ

 

そのまま食おう

 

わたしも驚きました。これまで二十年くらい生きて参りましたが、食パンはトースターで焼かねばならない物、という先入観がございました。そうなんです。こんがりと焼きあがった表面に素早く、薄く、マーガリンを拡げて食べる。

 

僕は家の慣例に従って、半ば、渋々、トーストを口に運んでおりました。トーストさんには今更になって大変申し訳ないですが、貴方を美味しいと思って食したことはありませんでした…それより、朝はご飯に納豆党、に属しておりましたので

 

ふわふわモチモチ食感の彼を、是非堪能してみて下さいな

 

 

 

 

もう、参りました…

1.コンビニ

 

メビウスの6mgを一つで

「えーそれにつきましてはですね、時期が参りましたら、改めてお話させていただきます…

「は?ないの?

「えー…申し訳ありませが…それにつきましてでもですね、時期が参りましたら、お話させていただきます……

 

2.二郎系

 

「にんにくは?

「えー、それにつきましてはですね、時期が参りましたらお話させていただきます…

「野菜は?脂は?

「えー、本当に申し訳ございませんが…それにつきましてもですね、時期が参りましたら、改めて、お話させていただければ、と思います…

 

3.スーパー

 

「袋お付け致しましょうか?

「えーそれにつきましてはですね、時期が参りましたらお話させていただければ、と思います…

 

4.セブンイレブン

 

「オールドファッションください

「普通のオールドファッションとチョコオールドファッションがあるですが、普通のオールドファッションでよろしいですか?

「えーそれにつきましてはですね、時期が参りましたら、改めてお話させていただければと思います…

 

5.ファミリーまーと

 

「成人であれば此方のパネル押して下さい

「えーそれにつきましてはですね、時期が参りましたら、改めてお話させていただきます