chefのブラックボックス

鍋を洗っていると、突然、横からオールバックの大柄な男が顔を覗き込んできた


その大柄な巨体から一つ一つゆっくりと言葉が紡ぎだされる


「どう?研究は進んでる?(ニコ」


この質問がされたのは、今日が別に初めてではない。この手の質問が私に対する興味に1mmも向けていられないのに私はもう気付いていた…




chefは多分50半ば位で、何故かは分からないがこの世代の人達は理系という生き物に対する謎の信仰心を持っている(私の父も含めて)


chefも例外ではなかった。勿論、僕が現在工学部の学生ということも知っている。


さっきの研究の進捗に対する質問に何かしらの返答をテキトウすると、必ずこう返ってくる


「娘がねぇ、解剖実験をこの間して以降、ろくに飯も食わねぇんだよ笑どうしたらいい?」


chefというブラックボックスに私がどんな引数を入力しようが、必ずと言っていい。これが出力される


結局chefの欲望は、理系であるが医学部生でない私に「娘さんは医学生でいらっしゃるのですか?」というこの一言、ただ、この一言を僕に発せさせたいというchefの真意を少し覗けた気がした