往来

特別、研究室にいく理由はなかった。そう


渋谷という街は、あらためて、考えてみるまでもなく好きではなかった。であれば、どういう訳で好きでもない街にいるのか。逆に私の愛する街、それが仮に存在して、そこにわざわざ腰を下ろす決意を早々にはしないだろうということを考えると、そこはさして問題では無いのかもしれない。この街は急峻な坂、永い永い山手線と埼京線の連絡通路、人塊、人と人と、人。そして人だった。私はそれを確実に求めていた。小社会から小走りで逃げてきたかと思うと、スクランブルに寝そべる巨大な暖炉の前で、少し腰を屈め、両脚をわざとらしく軽く震わせた。冷たい手をさすりながら…


私は、その両者を往き来した。常に人の温かみを体のどこかで感じていたい。それは同じであった。小さな社会に居ながらしてでも、独りであろうと思うときも