Part2

彼は特段、迷うしぐさも見せずに列の後方をさっと抜け出して、車内に入った。入り口に足をかけたその刹那に、空間でもてはやされ、我慢ならなくなったその空気達、それらが、体を包見込むのが分かった。

 

眼前には、白く整然と並ぶつり革、その下には緑色のふっくらと、そして柔らかそうな長椅子が据え付けられており、その背もたれには格子状の模様が刻まれている。無論、誰一人としていない車内。彼は長椅子のどこに座るか、隅か?中央か?真ん中の少し右寄りか?などを少し考え、彼は隅に座った。

 

その長椅子は彼の全体重を受け止めた。脚の裏から流れ出る心地の良い風が、この寂びれた車内にまだ淡く、弱く残存する焦燥、疲労、安堵感といったものもまでもを乗せて体を徐々に、下から浸食していった。少しして、彼は眠りに堕ちた。彼はその長椅子の悪魔に従順だった。夢想の狭間を彼は行き来しながら、その椅子の下、さらに深くから感じ取ることができる、その柔らかな揺らぎの在り処、根源を正確に射止め、意識するのは少し、先のことだった。

 

実際、彼の夢想への突入は、必然だった。表層的には、帰宅するための電車を待つため、回送列車で暖を取るのが当初の目的であったが・・それはあくまでも"当初の目的"であったし、それは彼の中で消化され、てきとうに揉み消されていた