我々はまちのカフェにいた。店の中は人が疎らで、奥の四人席もぽっかり空いていた、それでも手前の狭いカウンターに二人して腰を下ろしていた
彼は目の前の、露のある、透き通ったグラフを軽く横に揺すりながらー私に言った
「このくそみたいに暑い中、ホットときたか
「何だろな、今日に限ってはホットの気分だよ
「でもさ、季節感というものがあるだろうに
「季節感、か。
まだぴたりと汗で貼りついたシャツ、そこエアコンの冷たい空気が、ほんのりかすめるのを、感じた
「夏への、密かな反抗かなにか?
彼は、ほとんど笑いながらそう言った
「いや反抗心なんて、そんなもの微塵もないよ。むしろ、犬だよ。やつらの従順なる……でも、夏反対!!の立看板を担いでってさ、このへんの街でもテキトウに練り歩くのもいいかもしれない
「でも、夏にこれから対抗するよりも…紅葉を、少しでも早くお招きする方が…
わたしは少し考えてこたえた
「だから、このホットコーヒーは…秋をほんのちょっと、少しだけ早く輸入するための期待を込めた、祈りの儀みたいなものかもしれんね亅
わたしは2杯目のお代わりに席を立った