さくら、混沌骨。

「仙台ではその、桜が満開なんですよ。ワシントンかなんかでも今が見頃だそうです。今朝のニュースで、ちょうど鉢合わせました。」

「そうなんですか、ワシントンにも桜が咲くもんなんですわねぇ!ハハは」

「いや、いや、勿論、桜は日本のものです。」

二人は一時会話中断。刹那のハーフタイム。すべからく鋭く彼は斬り込んだ

「ハリボテビッチ監督、いや今は元監督、とお呼びした方が宜しいでしょうか?今までありがとうございました。日本に長くおられた訳ですから本国でゆっくり休んで下さい。夏ごろに御中元でも贈りますよ。何がいいですかね?麒麟黒ラベルはどうでしょう。日本のビールは最高ですよ、いや、でも少なくともキリンは贈りませんよ。分かってます。監督時代を想起させますからね。ビッチさん。失礼。最後くらいビッチさんと呼ばせて下さいな。」

 

 

僕は23時、ラーメン屋のカウンターで独り腰を落ち着けた。長浜豚骨ラーメンを啜り終え

ハリガネひとつ。

といささか、覇気の枯れた声をカウンター越しの店主に向けて、ただ発するのであった。僕は自分という存在に、明らかに、背中を向けて歩みを始めたのを充分承知した。満開のさくらもおおたにもハリボテもとんこつも、宙にぷらぷら浮いたまま、僕の背中を押すのであった。