Part1

どこからか吹き付ける冷たい風。その風の吹き付ける方角からは、人工的な光が溶け込んだ冷え切った夜空の黒、その奥に小さく月が浮かんでいた。

 

彼は、西船橋のホームにいた。そのホームはエスカレータで少し上がったところに真っ直ぐに横たえており、まばらな人が列車を待った。スマートフォンを弄る彼の前を特急列車が颯爽と、通過していく。それはほんの日常の中の一幕に過ぎない、見慣れたような、しかしそれを意識的にとらえることはある種の、新鮮味を彼自身に与えた。

 

ふと、頭上の電光掲示板を見上げた。

 

20時15分 府中本町行

20時17分 回送列車

 

電光掲示板から目を下し、流れるように現在の時刻を確認した。20時10分。あと五分ばかりこの上で待たなければならなかった。彼は憂鬱そうな目でもう一度、掲示板を見返したりした。

 

彼が立っている背後の三番線、ちょうどそこに17分発の回送列車が滑り込んで来るや、その口を、ゆっくりと開いたのだった…