かいてき

何とも過ごしやすく、快適な一日であろうか。私はほんのり、いつもに増して気合いの篭った太陽には目もくれないで、歩を進めた…時折少しだけ大袈裟に、鼻から息を吸い込んだりしながら

 

私が今日を「快適なもの」と判断しのは、季節特有の花粉を、鼻の奥から感じないからという一点からだった。私は常に、木々達の繁殖活動の飛び火を食らいながらも、これまでの春先という期間を幾度と過ごした。だから私だけでない多くの人間が苦しむこの病、それが猛威を振るう春先という時期を嫌った

 

しかし、それにしても私は皮肉だなと思った。

 

春を待ち侘びる淡い期待を、あれを運んでくるのは誰だろう?それは、池沿いの張り裂けそうに膨らむ実をつけた、あの枝々であろうか、いや。

 

わたしは靴紐を結ぶ真似をして一瞬だけ立ち止まって、鼻をすすった。何故だろう?進むはずの季節がかえって逆流していくような気さえ感じられる。快速列車のように鼻孔を抜けていく空気達は、冷たい名残だけを置き去りにして、すぐに消えてしまう

 

わたしはどうやら、あの苦しみの獄中で春の一端を見出していたらしい。それでも今日という日は、たしかに快適だったけれども…