おなかすいた

わたしは、駅へと向かう大通り、青葉通りに面する大きなカフェにいた。店の中は結構な人で賑わっていて少し煩いくらいだったが、わたしはこの位が好きだった。広い木目が強調された机に分厚いノートパソコンを置き、来週、明日から始まるであろう新しい研究テーマの下準備を、横にあるアイスコーヒーを時折口に運びながら、軽い和やかな気持ちでやっていた

 

ちょうどお昼に入ってから、4.5時間経ったということもあってか、空腹感が急に目立つようになってきた

 

わたしは、特にこれといって何も考えずにバックから財布を取り出して立ち上がろうとしたが、何かがわたしを引き留めた。少し立ち上がったまま、まるで貧血を起こしたかのように、粗めの布地のソファに吸い込まれていった。崩れたわたしとは対照的に、眼前に家計簿と思わしきものがゆっくりと起き上がり、ごく簡単な、当たり前のような計算が展開されていった。

 

結局、わたしが腹を満たすために、列の後ろに並ぶことはなかった。このことは、明らかにわたしの生活に対する責務から産まれたものであるのは言うまでもなかったが、それ以上に気になったことがあった

 

それは、以前のわたしが、故意に打算的な性格を持った行動を避けていると感じた点であった。兎に角、やたらと自分は、自分自身を運命という名の大河に、その大きな流れに身を任せることに美徳を感じていたし、少なからず、それに酔っていたのかもしれないと思った。というのも、周りの人間が必死に、大河を漂流する小さな木々に捕まっている姿を、嘲笑さえしていた気もしたからである

 

そんなこんなを考えていると、外の空気に触れて少し体を動かしたくなったので、わたしは小さなお盆に乗った空のグラスを、返却口にそっと置いて外に出た。ここが通りの商店街ということもあって、学生やら家族連れやらで賑やかにしていた。向こうの、遠くの西陽が、夏に渇いた喉を流れる麦茶のように、微かな潤いを与えたくれた