A子さんへ

技術補佐員のA子さん、この度はわたしのとった行動を何とお詫びをすれば良いのか、正直なところ分からずにおります。ただ、一つだけ、お分り頂きたいのは、僕には全くの、1ミリもの悪気すらなかったということ。たまたま研究室の隣のA子さんの部屋のあの大きな冷蔵庫に、昼に使うキャベツとベーコンを取りに来た、たったそれだけなんです。

A子さんは独り身だという事を、この間の飲み会でわたしは誰かから聞きました。毎日、夜遅くまで、実験室で白衣を纏い、試験管を振るう姿を見ていますと、男の入り込む余地など寸分もないことも、容易に頷けます。

でも、わたしはある意味、諦めているのかとさえ思っていました。あの寡黙で真面目な研究に対する姿勢。そうです、だからこそ昨日の昼の事件に対して、わたしの中にも暗く重い罪悪感として、居座っているとさえ思われるのです。

A子さんの部屋に入った途端、何故かその時はパソコンに目が行きました。そうですね、あの時は廊下からドアを開けて入ったのではなく、研究室中からA子さんの部屋に入ったので、今思えば廊下側からノックをして入室するべきでした。ディプレイに眩く光る、ウェデングドレスの数々、右手にマウスを掴み、左手で頬杖をつきながら…食い入るようにではなく、何気無くポカンとしながら、目の保養という具合で…

その時です。後ろのわたしの気配を感じなさったのか、わたしもその時すぐに部屋を後にしていればと、今でも後悔しますが…兎に角、急いで、慌ててマウスを動かして、タブを閉じる仕草は、わたしの胸の奥底に苦く残り続けて…

兎に角、わたしは早急に、忘れなければなりません。A子さんの為に、そしてわたしの罪悪感が再び、息を吹き返さない為にも