ピザ屋との文通

 拝啓   帰宅すると、わたしは胸が痛くなります。新聞受けの奥に刺さった、クシャクシャの貴方方のチラシを見ると。ここまで、わたしが熱烈なオファーを頂いているのに、それに応えない、ピザに冷ややかな人と思っておられませんか?わたしは新聞は取ってませんので、完全なるピザチラシ受けです。朝ピザ、夜ピザ、カモンカモンです。思えば私は常にピザを欲して、生きてきました。幼少期、パーカーのフードを裏っかえしにすると彼女募集中というのが流行りました。ご存知でないですか、ね?私はよく友人にふざけてフードを裏向きにされましたが、それを私は極端に嫌いました。別に、私は彼女を公に募集するのが恥ずかしかったのではなく、そもそも、女というものにその頃微塵の興味も芽生えてなかった頃です。結論から申し上げますと、一つの可能性、そう。わたしのフードにピザを誰かが入れてくれる可能性が亡くなると、当時の私は考えていました。それは冗談ですが、私はマンション住みなので、五階までエレベータに乗るのですが、時折、ほんの稀にです、ピザ屋のお兄さんと鉢合わせることがあるんです。あの香り、食欲を一気に覚醒させるあの香りが、あの空間を一瞬で支配するんです。私の背後には、ピザを持ったお兄さん。あぁその、片手にちょんと行儀よく乗った貴方のそれを、私のフードに

とりあえず、もう、気が済んだので、わたしは寝ます。

 

山本