おしゃれなばすと

高速バス。素晴らしい。こんな快適な空間はあったもんじゃない。圧倒的な人の温もり、温もりなんて生温いかもしれん、熱い、情熱。もはや蒸発寸前である。分厚いエンジン音、粗雑な振動、子守唄である。

素晴らしい。それだけではない、仙台を出発したこの我らが拘束バス大先生は三回も、3回もSAで休憩してくださるのだよ。しかも、SAに着いたことをやんわりと教えてくれるわけ。ふんわり、そしてやんわりと。さーびすえりあに到着しましたー!!とか騒がない。それでも皆眠りから目覚めて、ノロノロと両腕を前にダランとして脳汁でも両眼の際から流しながらあのだだっ広い便所に向かうわけだ。先生は、消えるエンジン音。それがただ、我々を覚醒へと導くのである。あらお洒落。

 

よくある小説とかで、勤勉な彼女、ある朝を境に失踪してしまう。昨日はちょいと飲み過ぎた。二日酔い。全開のカーテンから差し込む陽光、僕は若干数意識があるから、彼女の不在に僕は気づく。辛うじて目が開くか、開かないか。そんな中ベットから抜けて居間に向かう。テーブルにA4のコピー用紙が置かれている、窓を開けた拍子にでも風で飛んでかないよう醤油と七味が文鎮として、雇われている。彼らを横に弾いて紙を手に取ってそれを読む、文字がある。さようなら。寝ぼけたまま、それから直ぐ知り合いの彼女の仕事仲間に電話しても先週、彼女は辞表を出してるし行方知らずで寧ろアンタが何か知ってると思った旨の指摘を受ける。僕はここで始めてあの優しくて勤勉で、従順で、真面目で、だいたいいつもニコニコして愛想だけは良かった彼女が消え失せたことを知った訳だ。そりゃショックだ、眠い、勿論悲しい、でもそれよりも僕の心を占領し犇めくのは何故、何故?あの勤勉でクソ真面目な彼女が忽然と姿を消したのは……

 

お洒落だ。大きくあくびをしながら、明確な意識のもと、それだけ思った。