ねこしっかく。

 ねこという生き物は、あれは、ね。僕の人生の師匠に他ならない。

 


 我が師匠は人間というものに一向に媚びず、のうのうと、主人の留守の間もそこいらの近所、溝川、コンクリの側溝、工事現場の脇っちょ、小便風味の草むら、それらをぶらついて、腹が減ったらおい主人と、ご主人様ー、御主人様とお得意の撫で声を起用に駆使しながら、さり気無く近寄って、それからツナ缶をせびるのである。

 近々の僕は、僕はというと、恐れ多いこともさることながら、勿論、師からはまだまだ多くの事柄を学べる、いや学ばねばなりませぬが、師からは及第点を頂ける程度には成長したと、存じ上げております。職は断じて探しませぬ。いやでも、まだ精神的な面では何らの、師の境地までたどり着けていないことは、重々、承知しております。妻に対する負い目、そうそう、負い目を感じてしまうわけで、ね。その一物の人間らしい不安が、僕の毎晩の妻へのご奉仕、師でいうところの撫で声ですな、ハイ。妻から明日の千円、二千円ナリの小遣いをせびった僕は、なぜかこう、なんかね、両腕をさすってね、堂々としていられらくなってね、柄にもなく妻に先に風呂を譲ったり、食器の類はウォッシャーに入れたりね。ついでに洗濯物もドラムに仕込んでね。玄関の靴も、こう整えてね。先をしっかり。えへ、ありゃ。あれ?


 あれ?こりゃ及第点ですかなあ? お師匠さん。


 その玄関に鎮座するブロンズの猫は、終始、無言を貫いた。