アリスとお呼び

どうやらぼくは、不思議の国に迷い込んでしまったらしい。今まさにこの瞬間、トンでもない勢いで時間が流れるというか、飛び出す感覚、目の前のディスプレイがふにゃふにゃの海草みたく頼りないし、キーボードの打鍵音も町工場の騒音紛いの加工音とモスキート音を貼り付けたように感じるし、外を走る車のエンジン音もそこそこに馬鹿げてる。あのプリウスですら、今のわたくし、アリス様、の地獄耳からは逃れることは到底不可能なことと、思う。

この今の、現在進行形でぼくに降りかかっている一連の症状らは、つい最近ググってたまたま、偶然知ったのだけれど「不思議のアリス症候群」というものらしい。ネット上をうろうろとしていると、そりゃ、結構な人がこの例の、アリス症候群であることがわかった。そして、そうこうしているうちに、ネットサーフィンしている僕は、アリスになったのだ。

アリスになった僕は、不思議な国に入り込んだ不安とか非日常とか好奇心とかそんなエキサイティングな心境ではなく、一種の、ただの安心を手にしていた。それは、幼少期から悩まされていた正体不明の、時効間際の、売れ残り廃棄寸前の知覚異常に「不思議の国のアリス」というラベルを張っていただき、しかも一生に一度くらいは大多数の人間が経験することを知ったからである。

言葉というものの威力を、心底、感じずにはいられない。よく分からないもの達を無理やり束ねあげて、キツくぎゅっと縛って、しかもそこに近寄ってきた人たちも一緒に巻き込み、そして拘束してしまう。そして拘束されながらも、安堵しているのは異様に不気味な感じガスる。世の人間は、やたら繋がりたいらしい。