おひるね

わたしはiPadを開いた。カメラを起動する。もうお昼か。

これほど心地のよい土曜はそうそうないだろう。家のリビングの一室に引き込もっていても、十分にその恩恵を得ることができる。ベランダ脇の通りからは疎らなエンジン音に加え、時折、控えめな子供の騒ぎ声を聞くことができた。自宅待機が長引き、痺れを切らしてとうとう外に出てきたのだろう。妻と二人きりで家の中にいると、このご時世、世界にぽつり取り残されたような心持ちになるので、外のちょっとした刺激はというと、実のところ、かなりありがたいのだ。

手元のiPadのビデオモードをわたしは選択するや、画面いっぱいに占めているのは、わたしの妻だった。

妻は涎で池を作りながら、不規則な寝息を立てていた。夢をみているのだろう。

わたしは人差し指と中指で画面を広げると、画面は妻の顔面で満たされた。じっと、動かない。変化というのも、顔面のみではほとんど見られない。

この絵について、わたしは動画として撮影する必要があるのか否かを考えた。が、まぁとりあえず、面倒なので、念には念を、動画で撮影しておこうと、そう決めた。

撮影開始ボタンに触れる瞬間に、わたしの脳裏に一つが投影された。

世帯持ちだったんか!今が一番いいときだな!

わたしは特段、何に構うことなく、撮影を開始した。それからわたしはソファに寝転がって、ただ寝た。