ほんの小走りで、工場内のだだっ広い敷地内を抜けていく帰り道。あちこちでカラスが暇な集会をしているようだが、それは単に周囲に人気がないことを示しているだけにしか、思えなかった。

あぁ素晴らしきウィニングランならぬウィニングウォークで、わたしの歩行には活気と開放感とが満ち溢れており、スプリンクラーのように辺り一面、飛沫を撒き散らしてしまうのを抑え込む必要性があったほどで、要は浮かれポンチということである。

工場の北に位置する回転門からカードを通して抜けると、いつもと見かけぬ層の人々を沢山みるハメになった。帰宅時間が早い金曜の定めなのかもしれない。

WEEKENDと胸に刻まれた白Tの男が踵を浮かす勢いでこちらに向かってきたときに関しては、流石のわたしもそれなりに狼狽えはした。いくら金曜といえども浮かれ過ぎじゃないか?と。彼は丸メガネの髪はツーブロでそのせいか四角い印象をつよく与えた。箱が手足に載っているような違和感があった。が、全体的に身のこなしもスッキリしており、清潔感はわたしより潤沢だった。学生なのかここらの有象無象の社員なのかフリーターなのか、そんなことはどうでもよいではないか、という空気感。その後に続いた裸足でシティーサイクルを爆速で駆る目の細い作業着の兄ちゃんも、鎌を右手に遊ばせ徘徊する麦わら帽子の老婆も、みんな金曜日の一員であった。

娘も嫁も、あたりまえに狂っていた。狂っていたが、今日らそんなに手に負えないというほどのことはなかった。柔らかな狂気が、にわかに暖かい。わたしもこれしきの狂気で応えようとするが、恐らく上げすぎると、疲れて9時には寝落ちするのだろうと思った。