ごろごろパパは、きょうもリビングでごろごろ。
まるでセイウチのように、おおきなおなかをごろごろ、せなかをごろごろ。あおむけになって、むちゅうになってすきなほんをよんでいます。はれのひはたんぼをたがやしあめのひはほんをよむべし、とパパはいうけれど、あめでもあそんでほしい、ただ、いっしょにあそんでほしいのです。
とてもとてもたのしいパパとあそびたいので、ごろごろパパにちょっとだけ、いじわるをしたくなりました。いじわるといっても、ごろごろパパをこちらのせかいにひきもどすためにはしかたありません。なになに、そんなにたいそうなものではありません。まるいおさらのくいしんぼう。ひとつめをさわると、だいすきなおともだちは、ピコっと、めをさまします。おはよう、おはよう。おかあさんはそのおともだちのことを、ロボットそうじきとよんでいました。おともだちは、ゆかにおちてるもの、ほこりからキャビアまで、なんでもたべるよくばりものです。
ピコッ。グィーン。グィーン。おともだちはたのしそう。おともだちのみみもとで、「あのごろごろパパをすいあげて!」とおねがいすると、おともだちはこころよくしょうだくしてくれて、「それならおひるにたまごかけごはんをゆかにおとしといてくれよ!」といってごろごろパパにむかっていきました。
グィーン。グィーン。ガーン。ガーン。ものすごいおとをたてながら、おともだちはなんども、なんども、ごろごろパパにぶつかって、こちらにもどってきては、また、ごろごろパパほうにむかっていきました。しかし、ごろごろパパはびくともしません。それどころか、ちょうこくのようにかたまったままほんをよんで、まだあのむずかしいかおをしています。
しかたがないので、れいぞうこからまっしろなこむぎこのふくろをもってきて、おともだちのうえにのせました。「ごめんね。ちょっとこなっぽいけど、ちょっとだけ、がまんして!パパをこっちのせかいにつれもどすためなんだ!」というと、おともだちも「わかった!きょうのばんごはんは、ゆかにさわーくりーむおにおんそーすがかかった、あつあつのすてーきをおとしてね!」とゆかいにいって、こむぎこをのせてごろごろパパのほうにむかっていきました。
グィーン。グィーン。ガーン。ガーン。ポーン。こむぎこのふくろはほうぶつせんをえがいて、ごろごろパパのはなとくちびるのあいだにみごとにちゃくちしました。つくえのうえのはなも、てれびも、ほんだなのぺんたても、そのしゅんかんをみんながちゅうもくしています。それだけに、とてもきたいしました。おともだちも、ごろごろパパがほんをどこかになげすてて、にっこりえがおでこちらにあるいてきて、かたぐるましてクルクルかいてんしたり、てをつないでかさなんてささずにおさんぽにいって、みずたまりのうえをいっしょにはしりまわってくれるだろうと、そうかんがえては、たいそうしあわせなきぶんにひたっていました。
ごろごろパパのかおに、こむぎこのおしろいがぬられると、ごろごろパパはねころんだまま、ほんをちゅうになげだしました。それをみてうれしくなりました。だって、ごろごろパパがついにあちらのせかいから、こちらのせかいへもどってきたのですから!しかしながら、おともだちはなぜかうかないかおをしています。「せっかく、せいこうしたのにどうしたの?」とたずねました。すると、「いや、ぼくたちはごろごろパパをふきげんパパにしてしまったかもしれない。ごろごろのせかいから、ふきげんのせかいにうつったんだ。ふきげんのせかいは、こちらのせかいではないよ。」とふるえるこえでいうのです。つづけて、おともだちはいいました。「とにかく、すぐにぼくが、ふきげんパパのまっしろなかおをそうじしにいくしかななさそうだ!」すると、おともだちはとてつもないいきおいでパパのかおによじのぼってしょっかくをクルクルかいてんさせながら、こむぎこをすいはじめました。グィーン。グィーン。あたりいちめんにこむぎこがまって、まえがよくみえません。グィーン。グィーン。ガーン。ガーン。ポーン。なんということでしょう。おともだちが、さっきのほんのようにちゅうをまっています。あわてて、じめんにおちるまえにおともだちをきゃっちしたときには、ふきげんパパはもうベランダのとをあけて、そとにでてタバコをすおうとしていました。
ふきげんパパははこからてぎわよくタバコをコンコンとだすと、くちにくわえてひをつけました。ふきげんパパのみけんにみるみるしわがよるのがわかるとおさえきれずに、うれしくなって「パパがこっちにもどってくる!」ときづいたらさけんでいました。たばこのすいくちに、パパのにがてなパクチーをありったけにつめこんだのでした。くちからすえばあのかおりがはなのうえにくっついて、なかなかはなれません。
そのとき、インターホンがなったので、べつのへやにいたママがたくはいをうけとりにげんかんにでました。(つづく)