上にひとが越してきた。
いや、実際に会ったという訳ではないが、わかる。上で床が軋む音、水が水道管を流れる後、蛇口をキュッと締める音、換気扇が回る音。
そういった様々な、雑多な音が私の中で徐々にかたちになっていき、少しずつ、その人の輪郭を形成していくような感覚に囚われるものである
そもそも、上でうごめくのは男なのか女なのか…もっとも、それが人なのか、私の知るよしもないが…仮に人間でなくても、さしも驚かないかもしれない
この限りなく近く、限りなく遠き存在に想いを馳せながら就寝すると、朝の鶯の鳴くのを聞いて目が覚める。そんな四月。