土曜日は最高

「土曜日は最高だな」

僕はてきとうに、呟いた。

一つ机を挟んだ、左隣にいる彼が右耳のイヤホンだけをとって、ん?と若干の皺を眉間に寄せて、此方を見た。それから少し遅れをとって、回転椅子のキャスターからガラガラ音がやってくる

「いや、土曜日は最高だって話よ」

僕はゆっくりと、確かめるようにそう言った。一呼吸くらいの間の後に、彼は返した

「と、言いますと?」

彼のその好奇に満ちた目とその口調から、まさか、そんなまさか月並みの、当たり前の土曜日最高論では無いのだろう?という私に対するほのかな期待感、そう言った類のものを感じないでもなかった。そうであろう、彼は最もだと思う。ほぼ全人類が共感するであろう事実に何を今更、こいつは何を言及するのだろう?どういった斬新さを備えた切り口で、立ち向かうというのであろうか?

僕も私に期待した。そう。目の前の愉しい話に飢えた男だけでなく、私自身もだ。

ごくりと唾を飲み私は言った

「いや、特にこの話に続きはないよ」

彼のバットは見事に、空を切った。鋭く縦に変化したスライダーは、無邪気な土曜の、その陽気な午後の光の中へと、消えていった…

「あー今日は、やっぱり、土曜だな…」

彼は大きく伸びをしながら、小さく微笑んでそう呟いた