犬山城

午前に犬山城に訪れた。

この小高い丘の上に、木曽川を望むように建つ天守といえば、迫力や壮麗さは姫路城に劣るものの、品よく最低限で丁寧に、格好良く纏まってる印象を受けた。

天守閣の手前の城門(チケット売り場)に行くまでに、5分ほど石畳のうえを登ってく必要がある。左手には終始、生土の堀が横たわっており、その堀に沿うように横に並行する道を歩くのだが、妙な気分になったのは、私がただ昔の淡い記憶の霧に覆われたからで、何を突然、薄っすらノスタルジックな気分になったのでした。

堀にはもう多分とっくに水は通されてなく、余分に湿って多分な水を含んだ黒い土に、もはや原型のない落ち葉やら小枝やらが複雑に、幾重にも織重なっていた。掘りそのものから、わたしゃもう特に堀としての機能を全うしちゃおりませんと言う声が聞こえる。そこはもはや凹みであり、コンクリを流せば良さげなスケートボード場になりそうな予感すら、する?

そしてただでさえ、寂しさを露見させたこの空間に、輪をかけるように、堀の一部を覆う日陰が相まってか、尚のこと冷え寂しい印象を与える。ここまでせずとも、堀の腹の内は充分に見渡すことができるに、と。また、城壁の岩も暗く朝露で濡れており明らかに冷た過ぎる。そうかと思えば、道行く底抜けに明るい中国人観光客やヤケにニヤニヤした妻とのコントラストもそこに鮮やかに差し込んでくるわけで、そんなこんなで、わたしは天守閣にたどり着くまでに、何とか温度を取り戻した訳だが、この冷たさもまた不思議といつも身体に馴染んでいるように感じた。

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