こんな時間にFAXですか?

ご相談者さん。貴方、塩漬けにされて冷凍されたい欲求があるんだそうで。

 

はい。FAXで送ったとおりなんですが、久しぶりにFAX使ってみましたが、あれはいいもんですね。ははは。

 

塩漬け、これは比喩ですか?

 

はい。塩漬けはラーメン山岡家を意味しており、冷凍は三菱重工製の大容量エアコンでガンガンに冷えた部屋を示してます。

 

なるほど、で、これは悩みなんですか?

 

いえ、特に悩んでませんよ。

 

おっ、まさか、悩んでないことに悩んでませんか?

 

貴方、気持ち悪いですね。

 

どうやら図星のようですか。

わたしの推測だと貴方は土曜の朝にプラトンを読んだ、対話篇のパイドンでしょうか?恐らくそう思いますが、そこでソクラテスの魂の浄化についての議論を読んだ貴方は一抹の不安を覚えた。自分は知を愛する哲学者側の人間だと思っていたのに関わらず、肉体の欲求、山岡家や冷暖房の奴隷であることに自覚的にならざるを得なかった。自分は肉体の要望に振り回されて生きており、確かにそれは認めるが、それに対して悩んだことはないし、というようなニュアンスでしょうか?

 

先ほども申し上げましたが、改めて申し上げますに貴方、相当気持ち悪いですね。

私の問題は結局、山岡家に行ってしまうというのは人間であれば免れられないということです。それに抗うことは大変に難しいのです。というか無理です。だから、現状、夜中にわたしはここにいます。水を飲みながらラーメンを待つ。山岡家に引っ張られる、布団にいるときも何をしても、そういうのは、むしろ人間であることの証左だと思うんです。だからソクラテスが言うような、肉体から魂を分離するというようなことは、そんなことを考えるってナンセンスなんじゃないですか。

 

普通にパイドンを読むと、彼は死を肯定してそれ受け入れているのでないでしょうか?死ぬということは、肉体が無いということですもんね。肉体から魂を遊離させる1番手っ取り早い手法、最短経路でないかと。

 

はい。そのまさに、最短経路、みたいな思考なんですよ。コスパともいいますか、死ぬのが1番コスパ最高というような考えに取れなくないです。ソクラテス自身もコスパという考えの対極に位置取り嫌悪しながらも、効率厨のような振る舞いになってしまっている。そういう風にみてとれると思いました。でも、そこも含めて、わたしはこの作品を読んでいて面白いと思えたところです。

 

おお、突然にパイドンの感想を語り始めましたが、貴方。

でも貴方も、肉体と魂との分離やらに反対しつつも、塩漬け、つまり死に向かう行為をしていることはそうなのではないでしょうか?ラーメンを食べることは肉体の欲求なのかもしれませんが、その、ラーメンを食べることに意味があるのでは。言うなればゴボウでもニンジンでも言い訳じゃないですか?ラーメンを食うことの意味を再考すると、やはり死に繋がってくるのでは、そんな気もするのですが。