シフォンケーキ

日曜の朝、家族みんなでカフェにいった。

そのカフェは初めて行く店だった。私が豆を買い足したいといったら妻が一番いい意味で適当に店を選んでくれた。

 

その日の午後、私がシフォンケーキに血眼になっていたのは、紛れもなく午前中の珈琲屋の経験が影響したのはもはや語るまでもなき。午前中のシフォンケーキが私の何かを突き動かした。これを作ることが紛れもなく幸せを手に入れることと同値に思えたし何より頭より身体が勝手に動いた。

「私はシフォンケーキを作らねばならない」

そう思ったらシフォンケーキがそこにあった。作ったのはほとんど妻だったが、とにかく細かいことは脇に置いておくとしてシフォンケーキがそこに存在していた。オーブンから出した熱々の雲のようにやわらかな黄色。砂糖の焦げる香り。

私はとうとう日曜という幸福をその手中に収めた。そして笑った。娘もゲラゲラ笑った。そして妻も笑った。これが家族の幸せというものか、はははシフォンケーキを作れば済んだことだったのだ。何で今までこんな簡単なことに気づかなかったのか。

わたしは熱々のシフォンケーキを型から取り出さねばならないと無意識に手が動く。オーブンを開けると熱気が牙を向く。食べよう。食べねばならない。遠く。はるか遠くの方で妻の声が聞こえる。まるで沖のほうから誰かが私の名前を微かに呼ぶ声、それが潮風に吹かれてかき消えかけるように。小さく聞こえるのだ。

「シフォンケーキは焼成後最低でも4時間は待って下さい」

そして、私の幸福もまた明日遊ぼうねと残して帰路についた。わたしはそこらに落ちている水風船を背を向ける幸福さんに向かってぶん投げた。背中にあたってぽよんと跳ね返った。Tシャツには創英角ポップ体で4時間と刻まれていた。娘はわらっていた。