土曜

蛇口を捻って水を飲む。水を飲んだらこの後黙って後にするこの給湯室。自席、ノートパソコン、ディスプレイ、上司の承認を貰っていない帳票類。紙屑にペットボトル、わたしの身体がそれらの元に戻るのはもう時間の問題でしかない。このほの暗い空間でわたしは一人、要するに仕事をサボっていた。

土曜。いつからだろうか?この自販機が、土曜を販売するようになったのは。土曜。ああ土曜が手に入るのかと思うと、吸い込まれるように私は自販機の前に立ち尽くした。ブーンブーンと唸る自販機の灯りがぱっと突然瞬いたかと思うと、私の万札は既に吸い込まれていくところだった。私の指がボタンに触れるかの寸前で調達部の課長が入ってきた。山本君。君、あれ納期確認のつもりのメールだったの?本当?責任逃れだよね。こっちはコンプラすれっすれのとこでギリギリでモノ入れる為にやってるわけで、やっぱり予算足りなくて注文書流しませんってそれほんと君社会人としてどうなの?あぁいや、まぁ.....私は...あの、、あれは。ははは。私は腑抜けた脱殻のように窓際の方に無意識に後退りしようとした。私は現実逃避に給湯室に来たのに何で現実が入ってくるのだとツッコミを入れているほどの時間が流れずに、背後からぴっと音がした。

ガラガラガラガラんと、缶でも落下したかと思うと課長の顔にもやがかかり始めた。明らかに気のせいかと思ったりしたが、時間が止まったかのように課長の表情が固くなりつつも、鼻や目の際が円状に混ざりつつ溶け始めて顔全体が均一色になりつつあるのが分かったが、黄色と青のその構成色にはまさか、と、ダメ押しでIKEAと顔に刻まれているのをみると、恐らく課長はIKEAになったのだった。

給湯室をでると、私は人だかりのフードコートにいた。私の席はぽつんと窓際の日の当たるいい場所にあった。自席につきディスプレイを付けてマウスを握ると、マウスがホットドッグであることに気づいた。わたしはワイヤレスマウスの電池が尽きたことを事務員の女性に話すとキャビネットの中からエシャロットとピクルスを出してくれた。